あったかブログ

2016/01/21 更新

安全・安心な自校調理で中学校給食の再開を(あったか連載記事)

安全・安心な自校調理で中学校給食の再開を

神戸の中学校給食を実現する会 井村弘子

 

神戸市の中学校給食は、調理を民間業者に委託し、業者の工場から各中学校に配達される「デリバリー方式」を採用し、三十三校で先行実施がはじまっていました。

異物混入問題の解決を神戸市はできるのか?

ところが、昨年十月六日、マスコミで、神戸の中学校給食「異物混入問題」が報道され、大きな波紋を呼びました。十一月からの八十二校全校実施の直前だけに中学生・保護者の不安と落胆は大きく、神戸市PTAも「学校現場において食の安全が脅かされている」として、原因究明と安全・安心な給食の提供を求める要望書を提出しています。

神戸の中学校給食を実現する会の
「運動再出発学習集会」(12月13日)

私たち「神戸の中学校給食を実現する会」は、神戸市の「対応」決定が行われた十月二十一日に「交渉」を申し入れ、十一月十一日教育委員会は交渉に応じました。

①原因を明らかにし安全衛生の神戸市の責任を果たすこと②東灘・西区以外の給食が中止となった原因と責任を保護者と生徒に誠実に説明すること③給食全校実施の期待に早期に応えること―を求めました。

しかし、神戸市は、原因は特定できず不明だとし、安全衛生に関する市の指導責任はあいまいにしたまま。改善できない調理業者との契約を解除し、生徒や保護者には「お詫わびび」の文書だけで、早期開始の見通しも示せず、誠実な説明もなされていません。

安全衛生は民間任せがデリバリー方式の最大問題

その後、日本共産党の市議会議員の追及を受け、神戸市教育長も「我々の業者指導の徹底に課題があったと言わざるを得ない」と議会で答弁し、神戸市の責任を認めました。

今回の「異物混入問題」は、食材を床に置く、扉に網戸を設置しないなどの調理業者の安全衛生基準違反が原因です。しかし、業者の基準違反に対し、神戸市の監督が行き届いておらず、数カ月にも及ぶ指導にも業者を従わせることができませんでした。

食の安全という何よりも優先されるべき学校給食において、民間業者の資質に左右され、行政の監督指導責任が果たせないという、「デリバリー方式」の最大の問題が浮き彫りになりました。

自校調理も含めた実施方式の見直しを

しかし神戸市は、業者への指導の問題と、実施方式とは分けて検討するなどとして、有識者による検証委員会では三月まで検証を終え改善方向をだすとしています。しかし問題を起こした実施方式(デリバリー方式)そのものを検証しない限り問題は解決せず、中学生と保護者の期待と不安に応えることはできません。

何のための給食か。いまこそ、食育の観点に立ち返り、自校調理方式をふくめた実施方式の再検討を神戸市は行うべきです。

 

神戸市の中学校給食の問題としてこれまで、「おかずが冷たくおいしくない」「選択制で利用率が四割程度」「栄養教諭が配置されない」などがあげられていました。

全国各地でデリバリー方式から撤退

いま、全国で「民間委託・デリバリー方式」から「親子方式」「自校調理方式」への転換が相次いでいます。厚労省「大量調理施設衛生管理マニュアル」で「一〇℃以下又は六五℃以上の温度管理の配送」が義務付けられていますが、デリバリー方式では六五℃以上での配送が困難。一〇℃以下の「冷たい給食」は、「おいしくない」と生徒の利用率が低迷した結果、食育を推進することができなくなったというのが主な理由です。

姫路市では、年間一億円の費用で利用率一〇%台にとどまり、文科省の「学校給食実施基準」第二条(すべての児童・生徒に対し実施する)に反するとして、「デリバリ―方式」からの撤退の方向を打ち出しました。

神戸市は、政令指定都市では学校数が多く、デリバリー方式を選んだ例が多いとしますが、大阪市(百二十四校)でも、市民の運動で六年かけて「親子方式」への転換が始まりました。

兵庫県内でも、新たに実施を開始・決定した芦屋市は『自校調理方式』を選択し、川西市でも、実施計画の内容・方式は未定ですが「自校調理方式を基本として検討をすすめる」との基本方針を明らかにしています。

「自校調理」への転換市長の決断で可能

神戸市は、「デリバリー方式」採用の根拠の一つに、「経費が安く、すぐに実施できること」をあげていました。しかし、維持管理運営費は、他の方式より「デリバリー方式」の方がかさみます。(表参照)

各方式の年間財政負担(運営期間40年で割戻し)
単位:億円、神戸市教育委員会資料より作成
 
  自校調理 親子 センター デリバリー
初期投資費 3.6 1.6 3.2 0.4
修繕更新費 6.6 2.7 5.6 0.4
運営維持費 16.2 18.6 13.6 18.4
年間経費 26.4 22.9 22.3 19.2

「デリバリー方式」は初期投資が少なくても、「異物混入問題」で明らかになったように、安全・衛生面への設備投資がおざなりにされ、監督指導がゆきわたらない致命的欠陥があります。

「自校調理方式」を選択した場合、初期投資費は約百四十億円かかりますが、市債償還年数二十年で負担すると、年間七億円程度ですみます。どちらの方式をとるかは神戸市の姿勢、市長の決断にかかっています。

また、「デリバリー方式」の準備で、すべての中学校の配膳室の整備が終わっており、これを活用すれば「親子方式」(小学校で調理した給食を近くの中学校に配送する)はすぐできます。

神戸の中学校給食を実現する会は、自校調理方式での給食実施を求める、新たな市長請願署名を開始しています。

憲法二六条が生きる「未来への投資」を

日本国憲法二六条は、「すべて国民は……ひとしく教育を受ける権利を有する」「義務教育は、これを無償とする」と定めています。「会」の代表でもある料理研究家の坂本廣子さんは「食は未来につながり、こどもが変わり、地域全体が変わる。給食は憲法の理念を生かした、未来への投資です」と語っています。

もう一度、署名積み上げ神戸市動かそう

「会」が神戸市全区に結成され五年。九万筆の署名が神戸市を動かし、「給食実施」が決まり、多くの保護者・市民に喜ばれました。

この五年間の運動の中で、よく学び、各地の給食も試食して、運動する側みんなも成長したドラマが山ほどあります。三人の子育て中のAさんは「私は母親のネグレクトで辛い幼児期を過ごしましたが、小中学校に通えたのは『給食』があったからです。中学校給食の運動に参加させてほしい」との手紙を「会」に寄せ、以来、運動に参加しました。

九万筆の署名活動では、運動会、音楽会、夏祭り、PTA役員にも訴えました。新たに始まった署名にも大きな反応が返ってきています。もう一度署名を積み上げて神戸市を動かしましょう。

(兵庫民報 1月17日・24日付より転載)